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2002/09/16: "大井沢便り(9/16)"

さすがに3連休のせいか、この2、3日は釣り人の姿が目立ちます。
1週間ほど前から急に涼しくなり、近所との挨拶も「涼しくなりましたねえ。」の繰り返しです。 昨夜は10℃まで気温が下がり、室内の温度計も16℃でした。 これはもう真冬の室内よりも寒いわけで、「ストーブ点火温度」と言ってもいいのですが、どういう訳か長袖のシャツに着替えただけで過ごせてしまいます。 真夏の暑さの記憶がまだ体に残っていて、寒さに対する感覚が醸成されていないのかも知れません。

7月末に種まきされた蕎麦の花が満開で、稲もすっかり色づき始めています。
暑い盛りには全く姿を見せなかった1本角のカモシカが、今朝はいつもの場所に出てきて釣り人を見下ろしています。 春先には真っ白だった体毛が薄いグレーになっていて、これは夏毛なのかも知れません。 窓から見ると、今も潅木の中に座ったままでこちらを見ています。
我が家の前の小さな池には初夏に生まれたカルガモの雛がすっかり成長して時おり遊びに来ています。 同じ池の上をカワセミが通り過ぎます。 私の部屋の前の唐松には毎朝のように青ゲラが訪ねてきて、けたたましい鳴き声をはりあげます。
もうすぐここの川も禁漁になり、あっという間に秋も過ぎて、すぐに雪の季節になりそうな予感がしています。 つい先日まで、あれほどうるさかったアブも完全に姿を消してしまい、窓のガラスにまとわりつくハエの動きもにぶくなりました。
ベランダに置いた乳白色の花瓶の中にアマガエルが住み着いていて、食事時になるとのそのそと出てきてベランダの窓に張り付いたりしています。 窓ガラスにとまった小さな昆虫を狙っているのですがかなりドジな奴らしく、しょっちゅう失敗しています。 普段の皮膚の色は花瓶の乳白色に合わせていて、ベランダの手すりなどにしがみついているときには1時間近くもかかって茶色のまだら模様に衣装を変えます。 とにかくのろまな奴らしく、鉢植えのベンジャミンの葉に乗っている時も、乳白色のままで緑の葉の中で目立っています。 もう1ヶ月以上も住み着いているのですが、アマガエルらしい緑色の姿を見たことがありません。
今年はストーブ用の薪も十分に用意ができているので、のんびりとした気持ちで冬を迎えることができます。

先週の金曜日に樋口さんが青山紀ノ国屋のセロリを二株も持参して来てくれました。 東京に居るときもセロリだけが目的で紀ノ国屋まで買い物に出かけたものです。 セロリなんて山形でもどこのスーパーストアでも売っているのですが、紀ノ国屋のセロリだけは特別です。
月山のふもとで生活をしていながら東京同様の多彩な食材を望むつもりは無いのですが、それでも六本木ポンパドールやフォションのバゲット、ナショナル麻布のチーズ類、紀ノ国屋のイングリッシュ・マフィンなどを無性に恋しくなるときがあります。
ここに住んでいてとても淋しく感じることは近くに書店の無いことです。 買い物や散歩にでたついでに六本木交差点のあおい書店、青山ブックセンター、麻布十番の小さな本屋さんを覗くのが大きな楽しみでした。 鶴岡出身の丸谷才一の新刊を見つけたり、藤沢周平のまだ読んでいなかった本を買ったり、料理や食い物の本を立ち読みしたり、釣りの本を衝動買いして内容の貧弱さと馬鹿らしさに腹を立てたり、パトリシア・コーンウエルの新作が期待はずれだったり、大沢在昌の「新宿鮫」シリーズを買って思わず徹夜になってしまったり・・・ここではそんな楽しみだけは我慢しなければなりません。
毎日毎日、食い物の本ばかりを読んでいます。