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2010/11/13: "鶴岡のカリン"
藤沢周平にゆかりがあるかどうかは聞き漏らしましたが、鶴岡のどこかにカリンの巨木があって、見事に実をつけているんだそうです。
その木から取ったばかりの実をいただきました。
「紅茶に浸したマドレーヌ」ほどではないにしても、カリンの香りは小さな子供だった頃の農村の秋を思い出させます。
村の中に、一軒だけカリンの木を庭先に植えている家がありました。
青い実がレモンのように黄色く色づき、とてもいい香りがし始めても、その家の子は全く興味を示しません。
私があまりにもうらやましそうに見上げているものだから、ある日、その子が「取ってもいいよ。」と言ってくれました。
嬉しくて嬉しくて、勇んでカリンの木に登り、黄色くて一番大きな実をもぎ取りました。 甘い香りといい、ずっしりとした持ち重りといい、絶対に甘くてみずみずしい果汁に満ちているに違いありません。
大切に家に持ち帰って大人たちに見せると、「ああ、カリンか・・・。」と言うだけで、「良かったな。」とも「旨そうだな。」とも言いません。 大人たちの予想外の反応に、少しがっがりしながらも、甘柿よりもリンゴよりも絶対に美味しいに違いない、いい香りのする硬い実に、思い切り齧りついて驚きましたね。
前歯が折れそうなほどの硬さもさることながら、その不味さ、渋さたるや驚愕そのもので、ショックのあまり呆然としてしまいました。 あんなにも期待を裏切られたことは、私の長い人生の中でもあの一回だけです。
私が世の中を斜めから見るようになったのは、多分、あのカリン・ショック以降のことだと思います。
とは言いながらも、いまだにカリンに対する愛着を捨てることが出来ずにいます。 本当は美味しいんじゃないんだろうか・・・。