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2010/07/18: "食通は女性蔑視?"
先日、体調を崩して全く食欲が無く、胃がむかついて気分の悪い日が続きました。
仕方が無いので、ベッドに転がって鮨の本ばかりを読んでいたんですが、魯山人の「握り寿司の名人」という文章にひどいことが書いてありました。
「今一つの新傾向は、女の立ち食い、腰掛食いが驚くほど増えて来て、男と同じように「わたしはトロがいい」「いや赤貝だ」「うにだ」と生意気をやって、噴飯させられることしばしばという次第だ。・・・・・・島田髷の時代には売物にならなかった御面相が、口紅、爪紅、ハイヒールで堂々と寿司通仲間に侵入し、羽振りを利かす時代になってしまった。」
なんてことを言ってるんです。 1952年か1953年辺りに書かれた文章らしいけど、この頃にはここまで露骨に小気味のいいことが書けたんですねえ。 いい時代だったんだなあ・・・とうらやましがっていたら、「すきやばし次郎 旬を握る」でも、もちろんこれほどまでに露骨ではないんですが、小野二郎名人がこれに近いことを言っています。
吉行淳之介と丸谷才一の両氏は、山口辺りの女鮨職人の鮨を褒めているけど、この二人だったらそれは当然と言えば当然のことな訳で意外でもなんでもないんだけど、今回読んだ鮨関連の本には鮨屋の女房の話は出てきても、少しも女っ気が感じられません。 鮨は、どうやら作る方も食う方も、どちらも「男の世界」的な雰囲気が濃厚なようです。
もともと、プロの料理人の世界そのものが、男尊女卑的な傾向があるようにも思えます。 特に日本料理や鮨の分野にはそれが露骨に出ているのかもしれません。 でもね、その理由はかなり不純なものなんじゃないのかなあ・・・なんて思ったりもする訳です。
つまりですね、料亭なるところは金持ちの男が芸者を上げてドンチャン騒ぎをするような場所だったんだろうし、鮨屋なんてのは、下心見え見えの馬鹿男どもがクラブのホステスなんかを同伴して食いに来る場所でもある訳で、こんなところに素人の女性客が居たんじゃ男の後ろめたさが倍加しちゃって落ち着かないんだろうね。
ま、北大路魯山人が「島田髷の時代には・・・。」と言いたくなる気持ちも分からないではないけどね。
それはそれとして、丸谷才一氏が、ミシュラン三つ星鮨屋の親父にいちゃもんをつける理由は、実はこの女性客蔑視的な雰囲気が気に入らないんじゃないか・・・などと勘ぐる訳でもあります。