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2009/06/14: "角銀の裏で"
飯倉片町交差点のそばに、昔、「角銀」という小さいながらもとてもいい魚屋があって、気のいいお爺さんが二人で店を切り盛りしていました。 六本木明治屋の裏の材木町に住んでいた頃にも近くに小さくて親切な魚屋があったのですが、そこのオヤジさんが「小さな魚屋はお屋敷などへの出前が商売の中心なので、吟味した魚を置いているんです。」と教えてくれました。 (麻布十番の魚可津だって、小さくていい魚屋だったのですが、この前東京に行ったときには飲み屋になっていました。 あの材木町の魚屋が教えてくれた魚屋選別方は、今ではもう通用しなくなっているんでしょうね。 いわゆる「魚屋」そのものが商売としては成り立たなくなってしまっているような気もします。)
その「角銀」の裏に、Bronxというこれもまた小さくて雰囲気のいいバーがあって、週に5日くらいは立ち寄っていました。
私がこのバーを気に入っていた理由は、一つにはバーテンの吉田さんの接客態度が、いつも控えめででしゃばらず、常にカウンターの幅だけの距離を客との間に置いていて、しかも客への目配りはしっかりとしていたことにあります。
さらに、この吉田さんの作るドライマティニのダブルロックが絶品なんです。 もちろん、どんなカクテルでも絶妙で目を見張るものがあったんですが、彼が出してくれるロングドリンク類の味だけはいまだに忘れられません。 ジントニックでさえも、彼が作ると全く違う味になるんです。 一口、彼のジントニックを含むと、ほの暗いバーの中を一瞬深い針葉樹の森の風が吹き抜けたものです。
私が飲みすぎて悪酔いしたときに、「何か酔いが覚める酒を下さい。」と言ったら、不思議に気分がすっきりするカクテルを作ってくれて、しかも翌日は目覚めが実に爽やかでしたね。
その吉田さんのウォッカマティニを思い出しながら、しばらくぶりに作ってみました。
テラスから見る夕暮れ時の風景も軟らかな風も実に爽やかなんですが、自作のウォッカマティニの方は期待したほどの爽やかさにはなりませんでした。 新鮮なライムとグリーンオリーブが無かったせいばかりではなさそうです。 針葉樹の森の風も吹かず、ブナの森を渡ってくる風だけです。
でも、まあ、前山の緑を見ながらの夕暮れ時のロングドリンクもいいものです。