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2009/06/29: "トビの風切り羽根は<カイトクイル>?"
散歩の途中で道路に落ちていたトビの風切り羽根を拾いました。
毛鉤の素材として使えそうないい羽根です。 山や野原に落ちている野鳥の羽根は、毛鉤に使おうとすると脆くて、すぐに切れてしまって使い物になりません。 と言うことは、釣具店などで売っている毛鉤の素材(<フライマテリアル>なんてことを言いますが。)は生きている鳥や野獣から抜き取ったか、殺してすぐに抜き取ったか剥ぎ取ったりしたものなんでしょう。
世界中のフライフィッシャーは、口先では自然保護だの魚のキャッチアンドリリースだの、あるいは自然に優しい釣りだのと言いながらも、いかに多くの動物を虐殺していることになるんでしょうね。
かく言う私もそのフライフィッシャーなるものの一人な訳で、私以外の毛鉤釣り師を非難中傷するつもりは毛頭ありません。 私の部屋の毛鉤専用箪笥には、200〜300羽分もの鳥類の羽根、それと同じくらいの動物の毛皮(勿論、小さく切ったものですが)が入っています。 恐ろしいことです。
フライフィッシングは多分、最初はイギリスから日本に伝わり、1945年以降は主にアメリカからその技術や道具類が入ってくるようになったのでしょうが、そのせいか、この釣りで使われる用語のほとんどは英語をカタカナに置き換えたものばかりです。 つまり、欧米流毛鉤釣りを<フライフィッシング>と呼ぶように、この世界の用語はコンピュータの世界以上に日本語化が遅れています。 要するに、欧米文化のかっこ良さを持ち込んでいい気分になるためには、毛鉤は<フライ>じゃなきゃいけないし、釣竿は<ロッド>じゃないとダサくなっちゃうんでしょう。 今のフライフィッシング(ルアーの場合も含めて)がアメリカからの直輸入遊戯だということは、用語だけじゃなくて単位までがヤード、ポンドだということからも証明できます。
そのフライを巻くための素材類の名称がすごいです。 いまだにそれがどんな動物から取ったものなのか分からないものもあります。 例えばバジャー、スクイレル、ブルージェイ、マラード、ヘアー、パートリッジ、フェザント・・・。
となると、トンビの風切り羽根はさしずめ<カイト・クイル>とでも呼ぶんでしょうね。
さらに、フライパターンの名前でさえもエルクヘアカディスだったりヘーアズイアだったり、あるいはPMDだったりします。
佐藤成史さんの「The Flies」という本で<ゴールド・リブド・ヘアーズ・イアー>(金色の細い針金を巻きつけた野ウサギの耳の毛のフライ)の巻き方を見ると、以下の様に説明されています。
THREAD: ブラウン、オリーブなどの6/0やモノコード
WING CASE: ターキー・テイル、フェザント・テイル、グース・クイルなどのセグメント
THORAX: ヘアーズ・マスクのガード・ヘアとファー
ABDOMEN: ヘアーズ・イアーのガード・ヘアとファー
LEG: パートリッジ・ハックル・ファイバーやヘアーズ・マスクのガード・ヘアまたはなし
TAIL: ヘアーズ・マスクのガード・ヘア
RIB: ゴールド・ワイア
WEIGHT: レッド・ワイア#1〜#3
凄いことになってますよね。 <ヘアーズ・マスクのガード・ヘアとファー>だのRIBはゴールドでWEIGHTはレッドだなんて、初めの頃は何が何だか分かりませんでした。
(この名著の中に<ピーコック・ヒール>という素材名が頻繁に出てきますが、これは英語のHerl(Harl)のことでしょうから、<ヒール>と表記しちゃうと更に分からなくなりますね。 ま、<ピーコック・ハール>と書かれたってどうせ分からないんですけど。)
要するに、<フライフィッシング>の世界は、日本語がほとんど使われないカタカナ英語の特殊な世界な訳で、「イブニングのライズを狙ってキャストしたけどフッキングしなかった。」なんてことになる訳です。
だけど、そのユニークネスをマニアックにセルフサティスファクションしている限りは、エントリーレベルのアングラーには何もコミュニケートしないだろうしモチベートもしないだろうから、そんなサーカムスタンスの中でフィッシング・タックルのセールスをプロモートしようとしてもライズも無ければフッキングもしないんだろうなあ。
・・・と書いてきて頭痛がし始めました。