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2011/09/21: "誤訳本の典型・・・「完訳 釣魚大全」"
アイザック・ウォルトンの「The Compleat Angler or the Contemplative Man's Recreation」は、釣りに関する古典的名著として極めて有名な本です。 1653年にロンドンで発行されたそうで、17世紀の英語で書かれているために素人に毛が生えた程度の英語力では到底読みこなせない代物らしい。
と言うわけで、昔、森秀人訳の「完訳 釣魚大全」(角川選書)を買って読もうとしたことがあります。
あまりにもつまらなくて、訳が分からなくて、放り出してしまいました。
先日、百目鬼恭三郎の「乱読すれば良書に当たる」を読み飛ばしていたら、「アイザック・ウォルトン 釣魚大全」という書名が目に止まりました。 百目鬼さんはこんな本まで読んでいるのか・・・と感心しながら、その評を読んでみると、書き出しから
「翻訳に誤訳はつきもので、どんな名訳にも必ず誤訳はある。 ただ、その誤訳に気づいたら、版をあらためるときに直せばいい。 せっかくの西欧の名著が、誤訳のために台なしになっているのは、一種の罪悪であるからだ。
ところが、中には、誤訳だらけのまま恬として恥じることなく版を重ねている破廉恥な訳者、出版社もある。 アイザック・ウォルトン「釣魚大全」(森秀人訳・角川選書)などは、その典型というべきであろう。」
なんてことを書いてるんです。
百目鬼氏によると、この訳本は誤訳だらけどころか、原文とは関係のない、訳者の勝手な「創作」までもが至る所に侵入しているらしい。
どうやら、読むだけ損の破廉恥訳本のようです。
「完訳」ってところが、人を馬鹿にしていていいですけどね。
それはそれとして、開高健の著書に「完本 私の釣魚大全」があります。
当然、彼もウォルトンの「釣魚大全」を読んでいるんだろうと思ったら、彼は下島連氏の訳本を引用しているんですね。
この下島訳の「釣魚大全」はすでに絶版らしく、Amazonの古書でも探す意外には入手できそうにもありません。
今手に入る「釣魚大全」には立松和平が訳したものもあるようですが、彼が17世紀の英語を読解するほどの語学の達人だとは知りませんでした。
開高健の釣りに関する著書の中では、この「完本 私の・・・・」と「フィッシュオン」の2冊がいいですね。
「オーパ!」や「オーパ、オーパ!!」、「もっと広く!」、「もっと遠く!」などの方が有名だけど、これらの本は読んでいてひどく辛くて、暗い気持ちに落ち込むことがあります。