[前の記事: "雅な味のバナナ"] [新着記事一覧に戻る] [次の記事: "いらいらがつのる思わせぶりな天気"]
2005/11/23: "釣に関する個人的な諸々のこと(9)"
ロッドスタンドのPennとIslanderのリールの間に、妻の父親が使っていた海用のリールが乗っています。
義父はもうずいぶん前に亡くなっているのですが、3年ほど前に妻の実家の物置で錆びて埃だらけになっていたものを貰ってきました。 このリールで義父が何を釣ろうとしていたのか、何を釣ったのかを知りません。 彼の釣果というものを見たことが無いんです。
妻の実家を訪ね、前の晩にしたたかに飲んで、ふらふらとしながらトイレに起きると、まだ朝の5時だというのに義父は数人の釣り仲間たちと既に酒盛りをしています。 潮の状態が良くなかった、海が荒れていた、餌が手に入らなかった・・・などの理由で釣をあきらめ、早々に引き上げてきてのことだったようです。
トイレの往復には必ず応接間の前を通らなければなりません。 何とか気づかれないようにと用心して通るのですが、義父は「おう、お前もここに来て飲め!」と必ず声をかけて来ます。 家族はまだ誰も起きていません。
仕方なく仲間に入ると、「お前はウィスキーだったな。」などと言われ、サイドボードから取り出したジョニーウォーカーの黒ラベルかなんかのストレートを、牛乳屋のマークが入ったコップに表面張力で盛り上がるほどに注がれます。 飲まないと叱られます。 肴は、義父が茹で過ぎて、離乳食のようになったほうれん草のおひたしだけです。
ひどい二日酔いの早朝に、ほうれん草のおひたしで飲むジョニーウォーカーの黒ラベルほど不味いものはありません。 地獄です。 早く逃げ出したいばかりに死ぬ気で一気飲みをすると、また注がれます。 2杯も飲めば二日酔いもどこかへ飛んでしまうのですが、その日は夜まで半病人です。
何十年も経った今でも、ジョニ黒を見る度に胃の辺りが締め付けられて鳥肌が立ちます。
その義父のリールを大井沢に持ち帰り、使うつもりは全く無いのですが分解して錆びを落とし、油を差して磨いたらちょっといい感じになりました。 いつ頃のものか知りませんが、ダイワのDynamic500sというタイプです。
ここに越して来て、海へ行く機会はほとんど無くなりましたが、海釣りも好きです。
今でも夏になると、東京の友人たちからシイラ釣りの連絡が入ります。 先日は、新宿のサンスイで偶然顔を会わせた金さんからシーバス釣りの誘いを受けました。 彼はフライでのシーバス釣りにはまっているんだそうです。
相模湾のシイラ釣りで、フライを使ってひどい目にあったことがあります。 どう言う訳か、1mを超える大物がかかってしまい、ラインを引き出され、引き回され、船の底に潜られ、船の反対側に走られ、30分以上ものやりとりの末にやっと舷側まで寄せて来たら、3mもあるような鮫にあっさりと釣果の半分を食いちぎられてしまいました。 黒い鮫の頭が、船端から2mも飛び出したように見えました。 私のシイラを取り込むために、タモを持って舷側から身を乗り出していた友人は、「鮫だ!」と叫びながらタモを持ったまま5mもすっ飛びました。 体が半分になったシイラは、フライをくわえたままでまだ生きていました。 残された上半身だけで90cmもあり、ギザギザの鮫の歯型がくっきりと残っていました。 その見事な歯型に見とれていると、船頭が鮫の歯には熱を加えても死なないような雑菌が入っているから、すぐに捨てろ、触ってもいけない、といいます。
それ以来、海でのフライフィッシングはしていません。 同船の仲間たちの邪魔をするだけではなく、フライではカモメの釣れる確率が高過ぎます。 今では、海といえばルアーばかりです。 手返しもいいし、友人たちにも迷惑をかけないし、それに魚がヒットした時の感触もフライよりはいいような気がします。
昔、渓流で岩魚や山女ばかりを追い回していた頃には、「海? んな下品な釣ができるか!」なんてうそぶいていたのですが、あれは間違いでしたね。 何とはなしに、清流だとか渓流などの言葉の響きに惑わされていただけのような気がしないでもありません。