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2008/08/05: "1時間で読み飛ばす「もの食う人びと」"
本棚の隅にあった辺見 庸の「もの食う人びと」を読み返したのですが、闇鍋のような開高 健「最後の晩餐」の後では、テーマそのものは「最後の晩餐」以上に残酷で深刻なものなのに、あたかも風鈴を聞きながらの冷素麺か海苔茶漬け。 330ページのハードカバーをベッドに寝転んだまま1時間で読み飛ばしてしまいました。
この浅薄、この軽薄、この淡白はどこから来ているんだろうと不思議になります。
文体やボキャブラリーの差などではなく、作者が持っている体験の重さの違い、想像力と感性の差、そして時代の差なんではないかと思わせられます。
想像するに、「もの食う人びと」の著者よりも「最後の晩餐」の作者の方がはるかに飢餓にたいする恐怖感は深く強いものが有ったに違いありません。 1990年代のジャーナリストが持つ危機感よりは、1940年代を経験した小説家の不安の方がはるかに暗くて深いということなんでしょう。